ちらしの裏側に書くようなどうでもいい事を書き綴る場所。
そして同意者を得たい、そんな人。
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大事な家族の事だから知っているよ
あなたが本当は優しく気高くそれから強いんだって
それを言うとあなたは怒るけど
知ってる、それ照れ隠しでしょ
私の大事な兄さん
嘆かないで
苦しまないで
大丈夫だよ
なんたって私達なんだから!
「もしも君がいなければ」 2
タナッセ・レハト
レハトが幼少期に回収されていたらというIFの話。
詳しくは前の記事http://akatukiya.blog.shinobi.jp/Entry/126/をご覧下さい。
あなたが本当は優しく気高くそれから強いんだって
それを言うとあなたは怒るけど
知ってる、それ照れ隠しでしょ
私の大事な兄さん
嘆かないで
苦しまないで
大丈夫だよ
なんたって私達なんだから!
「もしも君がいなければ」 2
タナッセ・レハト
レハトが幼少期に回収されていたらというIFの話。
詳しくは前の記事http://akatukiya.blog.shinobi.jp/Entry/126/をご覧下さい。
「あ」
部屋への帰り道、中庭で何やらウロウロにしている青髪を見つけた。体格や服の合わせ方から見るに、間違いなく
「兄さん!!」
声をかけてから自分の失態に気付く。相手、つまりタナッセは私を見るなり嘆息を吐く。
「そろそろ呼び方に慣れろ」
「だって兄さ……タナッセは私の兄さんじゃないか。それとも、もう私の兄じゃないなんて言うか?」
私が言うとタナッセは再度溜め息を吐いて「言う筈がない」と目を逸らす。
「……理由は何度も教えただろう」
「耳が痛くなるくらい聞いた」
曰く、王となる者が誰かと懇意にするのは良くないのだとか。その懇意にしている者が王に与える影響は小さくなく、その影響は国政にすら関わる。であるから、現王の実子である自分との関係は公には絶つようにしなければ貴族から不満が上がるだろう、というのが兄さ―――あー、タナッセの言い分。呼び方も今までのように親しげに兄だと呼んではならないし、あまり二人で話すのも宜しくないそうな。
もちろん私とヴァイルは構わない、許嫁だし、それ以上に寵愛者同士であるから誰も文句を言える筈がないのだ。……だからこそ、タナッセに文句を言う奴がいたら私が懲らしめてやるのに。
「タナッセ、出ていくんだったな」
「あぁ、お前には悪いが此処にいる事は出来ないからな」
「じゃあ母さんと一緒に住む?」
言うとタナッセは顔を強張らせ、首を振って否定する。
「私は、その、ディットンへ行く」
「あぁ、あそこか。……遠いな」
母さんと兄さんとヴァイルとでディットンに出掛けた事があるが、頭の中に残ってるのは揺れる鹿車の事くらい。あと――――まぁ、これはいいか。
「心配するな、お前に何かあればすぐ行く」
タナッセが言う。
「お前?お前達じゃなく?」
「……ヴァイルは私が来たところで突き返すだろう」
「表面的にはそういう態度だろうけど、きっと喜ぶよ」
私が言えばタナッセは目を伏せ「そうか」と呟く。
とある事が切っ掛けで二人はいがみ合っている、――表面上は、だが。何も知らなければ犬猿の仲に見えるだろうが、根底には幼い頃から変わらずの親愛の情があって、二人とも相手がいない所では心配なんかしたりする。間にいる私が何とかせねばと日夜動いているのだが、二人とも頑固で意地っ張りなものだから自分から歩み寄ろうとは絶対にしないのだ。嫌ってない癖に嫌いなフリを続けて、結果、相手が真に受けて距離が遠ざかる。
馬鹿なのだ、二人とも。ちゃんと話し合えば簡単に和解出来るのに。
「私はもう行くぞ、いいか?」
「ん?あぁ、うん。私も部屋に戻るよ」
「……ではな」
背を向け軽く手を振り、タナッセが私達の部屋とは反対の方向へ歩いていく。私も別れの言葉を告げ、部屋への帰途につく。だが、ふいに妙に寂しくなって振り向くと「あれ?」タナッセがじっとこちらを見ていた。
「……タナッセ?」
声を掛けると我に返ったように体を震わせ、私と目を合わすと眉尻を下げた。何かを言うのだろうかと首を傾げてタナッセを見ていると
「私は不安なのだ」
ぽつりとそんな事を言う。
「お前達が二人で過ごさねばならない事が不安だ」
なんだ、そんなこと。
私が笑って見せると、タナッセはじっと私を見つめる。
「心配ない、二人だ、二人いる。一人じゃないんだ」
右手と左手の人差し指を立てて、ぴたりと添わせる。異なる存在だけど似ていて、似ているくせに少し違う。だけど違うものだからそれぞれ違う役割を持てる。
「一人が泣けば、一人が拭う。一人が傷つけば、一人が癒す。一人が孤独を嘆く前に、一人が満たされるよう愛す。一人が剣を持つなら、一人がその柄に手を添える。一人が盾を持つなら、一人がその背を支える」
数え歌をうたうように私は言う。タナッセみたいに形式に則った言葉ではないけど少しは様になっているだろうか。だが「だから、えぇと」どうにも次の言葉が出てこない。まったくもって慣れないことはするべきじゃないな。
「だけど、さ、やっぱり似ているから一人が笑えば二人で大笑いしてさ、涙も二人で泣けばすぐ終わるしさ。えぇと、だから一人の為にもう一人がいて、二人の為に二人がいるから」
一度俯き全部息を吐いてから、改めてタナッセを見る。案の定というかなんというか、文鳥が豆を当てられたみたいな顔でこちらを見ていた。だが、私は構わず続ける。
「私とヴァイルは弱い。でも私達なら、二人でなら大丈夫」
二人でなら何もかもを乗り越えて、通り越して、追い越していけるのだと胸を張ると「そうか」ふ、と笑う。「そうだった」タナッセは眉尻を下げたままで微かに笑う。苦笑といったふうだが、その笑みは少し楽しげにも見えた。
「タナッセは昔から心配性だ」
私が笑うとタナッセは「誰のせいだと思っている」と溜め息を吐かれた。声をあげて私が笑うと、ギロリと睨まれたので口をおさえた。
「ともかく無理はするな」
タナッセが背を向けながら言う。「では、また後でな」「うん、また」見えてはいないだろうが、手を振る。その背が遠ざかっていくのを見送る。
タナッセの、その背は大人のそれで、確かに広いのだが、他の同年代に比べると少し小さい気がした。気がしてるだけで別に負けてる訳じゃない。たぶん彼は身を縮めていると私が考えているから。周りからの揶揄に圧し殺されていると思っているから。
現王である母さんの実子のタナッセには印がない。代わりに従兄弟のヴァイルにあらわれ、そして、ただの農民の子である私にも印があった。貴族達がタナッセの事を話題にすれば必ず出てくるのは「リリアノ様の子なのに」だ。次いで、「ただの農民にすらあったのに」と印を持つ私の話。
私には印の価値なんか分からない。そりゃヴァイル達と会えたのは嬉しいけど、別に欲しくて手にいれたものではないし。でも、きっとタナッセは欲しかったんだろう。母さんの子であるという誇りとして。
兄さんは私を愛してくれてるっていうのに、私は兄さんの重荷、コンプレックスの原因でしかない。神からの寵愛を授かる者とか言われてるくせに、私は兄さんを苦しめてるだけ。神からの祝福なんて、きっと大した事ない。私なんて大した事ない。私なんて。
「レハト」
「え、あ……あ、なに?」
声を掛けたのはもう大分離れた位置にいる件のタナッセ。少しの沈黙の後かぶりを振り、もう一度私の名を呼んだ。
「私はその徴が欲しかった、ずっと」
思わぬ事に言葉が詰まった。タナッセは続ける。
「何故お前達に在り、私には無いのかと恨みもした――だが、そんなものすぐに消えた」
タナッセは言う。その顔色は遠くて伺えないが、彼の事だから青ざめているに違いない。なんで今更そんな事を言うのか、だとか、やっぱりそうか、だとか、色んな思考が巡る。
「お前はよく出来た子供だった。よく笑い、よく耐え、よく学んだ」
彼はそこで小さく笑う。
「兄さん?」
ようやっと出てきた声でタナッセを呼ぶと、彼はまた笑った。
「そう、兄と。お前は、こんな私を兄と呼んでくれる。いくら徴が欲しくとも弟を恨む気になどなれるものか」
笑うのを止めて、すっと一つ息を吐く。「レハト、聞け」私は何を言われるのかと恐る恐る頷く。
タナッセは、言う。
「お前に徴があって良かったと心から思っている、こうやって出会う事が出来たのだからな。それに私にはあいつの世話などみれん」一気に言って、ふぅと息を吐いて。
「ヴァイルにはお前がいい。お前が来る前は私を王配に、などとふざけた話があったがな。いざ、レハト、お前が来てみれば、奴はお前のものだ。私から見ればお前達は一対の翼だった。二人揃わねば空を飛ぶこと叶わぬ冠をいだく鳳だ」
そんな大したものじゃないと私は頭を振る。するとタナッセは「当人には分からぬだろうさ」と肩を竦めた。
「籠に収められた鳥とて、翼を持つならばいつの日にかは空に舞い上がる。その時は」
その続きをタナッセは言わず、私も次がず、二人目を合わせて頷く。
言われなくても私はヴァイルが好きだから何処へもいかない。他に行く場所知らないし、知る必要もないから。彼の隣が一番楽しい。何度か離れかけた事はあるが、その度に彼の存在が如何に自分に必要かを認識するばかりだ。固執や中毒、依存だと言われてしまえば、肯定せざるを得ない。
「タナッセは本当にヴァイルを大切に思ってるね。妬ける」
「なっ!!私はただ……!」
「ははっ、冗談だよ。タナッセが家族想いの人だって知ってる」
「っ……」
何かを言おうと、魚みたいに口をパクパクさせていたが、やがて「お前には敵わん」嘆息混じりで言われた。
「タナッセにも誰か出来るといいな」
「ふん、必要無い」
「そっか?楽しいけどね。タナッセの結婚式見たいし」
「興味が無い」
「あ、ユリリエとかどう?」
「何故アイツが出てくる!!」
「仲良「どこがっ」
人の言葉に被せちゃ駄目だって礼節の授業で学んだでしょう、兄さん。当の本人は遠目から見ても分かるほどに動揺していて、頻りに周りを窺っている。噂をすれば影、でも恐れているのだろう。
「は、話はそれだけだ」
何回めかの別れを口早に言い、タナッセは早足で去っていく。私も帰って今日の事を日記に書いて「レハト」
「もー、まだ何か」
「無理はするなよ、決して」
「あ、ぇ、あ……」
もうぼやけるようにしか見えないタナッセが。
「この非力な兄でも力になれるのだ、たまには頼ってこい」
いや、兄さんが言う。遠くにいるから表情は分からないが、きっと真っ赤になって照れてるに違いない。私が思わず吹き出すと兄さんは逃げるように背を向け走り出した。
「兄さん!」
返事も聞かずに何処行くんですか。
「その時になったら、早く来てよ!二人で泣いて待ってるから!」
兄さんの足がぴたりと一度だけ止まり、けれどすぐに走り出す。その背に向かって私はもう一声掛ける。
「お兄ちゃん、大好きだよ!!」
「なっ……!」
振り向いた兄さんは曲がり角を曲がりそこねて壁に激突するのを横目に、私はモルを呼んだ。
本当にもう世話の掛かる兄だこと。
部屋への帰り道、中庭で何やらウロウロにしている青髪を見つけた。体格や服の合わせ方から見るに、間違いなく
「兄さん!!」
声をかけてから自分の失態に気付く。相手、つまりタナッセは私を見るなり嘆息を吐く。
「そろそろ呼び方に慣れろ」
「だって兄さ……タナッセは私の兄さんじゃないか。それとも、もう私の兄じゃないなんて言うか?」
私が言うとタナッセは再度溜め息を吐いて「言う筈がない」と目を逸らす。
「……理由は何度も教えただろう」
「耳が痛くなるくらい聞いた」
曰く、王となる者が誰かと懇意にするのは良くないのだとか。その懇意にしている者が王に与える影響は小さくなく、その影響は国政にすら関わる。であるから、現王の実子である自分との関係は公には絶つようにしなければ貴族から不満が上がるだろう、というのが兄さ―――あー、タナッセの言い分。呼び方も今までのように親しげに兄だと呼んではならないし、あまり二人で話すのも宜しくないそうな。
もちろん私とヴァイルは構わない、許嫁だし、それ以上に寵愛者同士であるから誰も文句を言える筈がないのだ。……だからこそ、タナッセに文句を言う奴がいたら私が懲らしめてやるのに。
「タナッセ、出ていくんだったな」
「あぁ、お前には悪いが此処にいる事は出来ないからな」
「じゃあ母さんと一緒に住む?」
言うとタナッセは顔を強張らせ、首を振って否定する。
「私は、その、ディットンへ行く」
「あぁ、あそこか。……遠いな」
母さんと兄さんとヴァイルとでディットンに出掛けた事があるが、頭の中に残ってるのは揺れる鹿車の事くらい。あと――――まぁ、これはいいか。
「心配するな、お前に何かあればすぐ行く」
タナッセが言う。
「お前?お前達じゃなく?」
「……ヴァイルは私が来たところで突き返すだろう」
「表面的にはそういう態度だろうけど、きっと喜ぶよ」
私が言えばタナッセは目を伏せ「そうか」と呟く。
とある事が切っ掛けで二人はいがみ合っている、――表面上は、だが。何も知らなければ犬猿の仲に見えるだろうが、根底には幼い頃から変わらずの親愛の情があって、二人とも相手がいない所では心配なんかしたりする。間にいる私が何とかせねばと日夜動いているのだが、二人とも頑固で意地っ張りなものだから自分から歩み寄ろうとは絶対にしないのだ。嫌ってない癖に嫌いなフリを続けて、結果、相手が真に受けて距離が遠ざかる。
馬鹿なのだ、二人とも。ちゃんと話し合えば簡単に和解出来るのに。
「私はもう行くぞ、いいか?」
「ん?あぁ、うん。私も部屋に戻るよ」
「……ではな」
背を向け軽く手を振り、タナッセが私達の部屋とは反対の方向へ歩いていく。私も別れの言葉を告げ、部屋への帰途につく。だが、ふいに妙に寂しくなって振り向くと「あれ?」タナッセがじっとこちらを見ていた。
「……タナッセ?」
声を掛けると我に返ったように体を震わせ、私と目を合わすと眉尻を下げた。何かを言うのだろうかと首を傾げてタナッセを見ていると
「私は不安なのだ」
ぽつりとそんな事を言う。
「お前達が二人で過ごさねばならない事が不安だ」
なんだ、そんなこと。
私が笑って見せると、タナッセはじっと私を見つめる。
「心配ない、二人だ、二人いる。一人じゃないんだ」
右手と左手の人差し指を立てて、ぴたりと添わせる。異なる存在だけど似ていて、似ているくせに少し違う。だけど違うものだからそれぞれ違う役割を持てる。
「一人が泣けば、一人が拭う。一人が傷つけば、一人が癒す。一人が孤独を嘆く前に、一人が満たされるよう愛す。一人が剣を持つなら、一人がその柄に手を添える。一人が盾を持つなら、一人がその背を支える」
数え歌をうたうように私は言う。タナッセみたいに形式に則った言葉ではないけど少しは様になっているだろうか。だが「だから、えぇと」どうにも次の言葉が出てこない。まったくもって慣れないことはするべきじゃないな。
「だけど、さ、やっぱり似ているから一人が笑えば二人で大笑いしてさ、涙も二人で泣けばすぐ終わるしさ。えぇと、だから一人の為にもう一人がいて、二人の為に二人がいるから」
一度俯き全部息を吐いてから、改めてタナッセを見る。案の定というかなんというか、文鳥が豆を当てられたみたいな顔でこちらを見ていた。だが、私は構わず続ける。
「私とヴァイルは弱い。でも私達なら、二人でなら大丈夫」
二人でなら何もかもを乗り越えて、通り越して、追い越していけるのだと胸を張ると「そうか」ふ、と笑う。「そうだった」タナッセは眉尻を下げたままで微かに笑う。苦笑といったふうだが、その笑みは少し楽しげにも見えた。
「タナッセは昔から心配性だ」
私が笑うとタナッセは「誰のせいだと思っている」と溜め息を吐かれた。声をあげて私が笑うと、ギロリと睨まれたので口をおさえた。
「ともかく無理はするな」
タナッセが背を向けながら言う。「では、また後でな」「うん、また」見えてはいないだろうが、手を振る。その背が遠ざかっていくのを見送る。
タナッセの、その背は大人のそれで、確かに広いのだが、他の同年代に比べると少し小さい気がした。気がしてるだけで別に負けてる訳じゃない。たぶん彼は身を縮めていると私が考えているから。周りからの揶揄に圧し殺されていると思っているから。
現王である母さんの実子のタナッセには印がない。代わりに従兄弟のヴァイルにあらわれ、そして、ただの農民の子である私にも印があった。貴族達がタナッセの事を話題にすれば必ず出てくるのは「リリアノ様の子なのに」だ。次いで、「ただの農民にすらあったのに」と印を持つ私の話。
私には印の価値なんか分からない。そりゃヴァイル達と会えたのは嬉しいけど、別に欲しくて手にいれたものではないし。でも、きっとタナッセは欲しかったんだろう。母さんの子であるという誇りとして。
兄さんは私を愛してくれてるっていうのに、私は兄さんの重荷、コンプレックスの原因でしかない。神からの寵愛を授かる者とか言われてるくせに、私は兄さんを苦しめてるだけ。神からの祝福なんて、きっと大した事ない。私なんて大した事ない。私なんて。
「レハト」
「え、あ……あ、なに?」
声を掛けたのはもう大分離れた位置にいる件のタナッセ。少しの沈黙の後かぶりを振り、もう一度私の名を呼んだ。
「私はその徴が欲しかった、ずっと」
思わぬ事に言葉が詰まった。タナッセは続ける。
「何故お前達に在り、私には無いのかと恨みもした――だが、そんなものすぐに消えた」
タナッセは言う。その顔色は遠くて伺えないが、彼の事だから青ざめているに違いない。なんで今更そんな事を言うのか、だとか、やっぱりそうか、だとか、色んな思考が巡る。
「お前はよく出来た子供だった。よく笑い、よく耐え、よく学んだ」
彼はそこで小さく笑う。
「兄さん?」
ようやっと出てきた声でタナッセを呼ぶと、彼はまた笑った。
「そう、兄と。お前は、こんな私を兄と呼んでくれる。いくら徴が欲しくとも弟を恨む気になどなれるものか」
笑うのを止めて、すっと一つ息を吐く。「レハト、聞け」私は何を言われるのかと恐る恐る頷く。
タナッセは、言う。
「お前に徴があって良かったと心から思っている、こうやって出会う事が出来たのだからな。それに私にはあいつの世話などみれん」一気に言って、ふぅと息を吐いて。
「ヴァイルにはお前がいい。お前が来る前は私を王配に、などとふざけた話があったがな。いざ、レハト、お前が来てみれば、奴はお前のものだ。私から見ればお前達は一対の翼だった。二人揃わねば空を飛ぶこと叶わぬ冠をいだく鳳だ」
そんな大したものじゃないと私は頭を振る。するとタナッセは「当人には分からぬだろうさ」と肩を竦めた。
「籠に収められた鳥とて、翼を持つならばいつの日にかは空に舞い上がる。その時は」
その続きをタナッセは言わず、私も次がず、二人目を合わせて頷く。
言われなくても私はヴァイルが好きだから何処へもいかない。他に行く場所知らないし、知る必要もないから。彼の隣が一番楽しい。何度か離れかけた事はあるが、その度に彼の存在が如何に自分に必要かを認識するばかりだ。固執や中毒、依存だと言われてしまえば、肯定せざるを得ない。
「タナッセは本当にヴァイルを大切に思ってるね。妬ける」
「なっ!!私はただ……!」
「ははっ、冗談だよ。タナッセが家族想いの人だって知ってる」
「っ……」
何かを言おうと、魚みたいに口をパクパクさせていたが、やがて「お前には敵わん」嘆息混じりで言われた。
「タナッセにも誰か出来るといいな」
「ふん、必要無い」
「そっか?楽しいけどね。タナッセの結婚式見たいし」
「興味が無い」
「あ、ユリリエとかどう?」
「何故アイツが出てくる!!」
「仲良「どこがっ」
人の言葉に被せちゃ駄目だって礼節の授業で学んだでしょう、兄さん。当の本人は遠目から見ても分かるほどに動揺していて、頻りに周りを窺っている。噂をすれば影、でも恐れているのだろう。
「は、話はそれだけだ」
何回めかの別れを口早に言い、タナッセは早足で去っていく。私も帰って今日の事を日記に書いて「レハト」
「もー、まだ何か」
「無理はするなよ、決して」
「あ、ぇ、あ……」
もうぼやけるようにしか見えないタナッセが。
「この非力な兄でも力になれるのだ、たまには頼ってこい」
いや、兄さんが言う。遠くにいるから表情は分からないが、きっと真っ赤になって照れてるに違いない。私が思わず吹き出すと兄さんは逃げるように背を向け走り出した。
「兄さん!」
返事も聞かずに何処行くんですか。
「その時になったら、早く来てよ!二人で泣いて待ってるから!」
兄さんの足がぴたりと一度だけ止まり、けれどすぐに走り出す。その背に向かって私はもう一声掛ける。
「お兄ちゃん、大好きだよ!!」
「なっ……!」
振り向いた兄さんは曲がり角を曲がりそこねて壁に激突するのを横目に、私はモルを呼んだ。
本当にもう世話の掛かる兄だこと。
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