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ちらしの裏側に書くようなどうでもいい事を書き綴る場所。 そして同意者を得たい、そんな人。
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おもしろそうって思ってた
どうでもいいとも思ってた
もしかしたらって思ってた
なんだか嬉しくも思ってた

仲良くなれるって思ってた
仲良くなれたらって思った

あんたはどう思ってたの?




ヴァイル×レハト
第一話:邂逅




お髭の侍従さん――ローニカさんだったかなぁ――に城の事を聞いたのだが、元々この場所は戦時中に築かれた砦なのだという。であるから、攻めるに難しいように内部は複雑な構造をしているらしい。――否、らしい、ではなく実に複雑である。何故ならば
「ここは一体どこなんだ」
実際に迷った。
私は嘆息を吐きながら周りを見渡した。石を敷き詰めた壁に石畳、それが目の届く限り、ずっと遠くまで続いている。目印らしきものといえば扉くらいだが、それも馬鹿の一つ覚えのように刻まれた模様は同じだから手が負えない。
まるで同じ場所をぐるぐる巡っているような錯覚に陥り、私はすっかり疲れ果ててしまっていた。
「誰かいないのか」
人の気配が全く無い。一人でも通りかかったなら道を聞くなり、付いていくなり出来るのだが、ここにいるのは私だけ。「疲れた」言って傍にあった巨大な石柱に背中を預ける。石の冷たさが心地好い。
「あー……」
迷子になった事無かったのになぁ、母さんが見てたら笑うだろうなぁ、なんて考えながら膝を曲げてずるずるとしゃがみ、床に座り込む。
「ねぇ」
「あ?」
「あんた、何してんの?」
真上から聞こえる声に「っ!」急いで顔をあげた。
「もしかして叔母さんに叱られた?叔母さん怒ると怖いもんなー」
あんなに言われたら凹むよな、なんて笑いながら私の頭をぽんぽん叩く。
緑がかった金髪に鮮やかな緑の目。幼い顔をした、その人物の額には複雑な紋様が光りながら存在している。えぇと、名前は、えぇと
「ヴァイル……?」
「お?覚えててくれたんだ。へぇ、嬉しいな」
目を細め、口角を上げた彼は私の隣、つまり床に座った。お貴族様のくせにこういう事に抵抗無いのか。
「あんたはレハトだったよね。前に会ったのは、あんたが来た日だから……あ、4日前か。うん、じゃあ改めて宜しくな」
くるくると表情を変える彼はおもむろに手を差し出す。つまり握手を求められている訳で。――何かお貴族様の流儀みたいな握り方があるのかもしれ ないが、今の私にはわからない。だから直接握ったりせずに、同じように手を差し出した。一瞬きょとんとヴァイルが目を丸くしたが、すぐに「よろしく」がっ ちりと私の手を握り上下に振った。なんだ、何も変わらないな。
「ねぇねぇレハト」
「なんですかヴァイル様」
「……様?様ってなに?」
「偉い人には様を付けるって聞きました」
「あー、まぁ、そうだろうけど。合ってるんだけど」
彼は眉間に皺を寄せ、歯切れ悪く言う。私が何か無礼を働いたのだろうか。やがて彼は頭をがしがしと掻くと「レハト」キッと私を見つめた。
「レハトも充分偉い奴だから俺に変な気使うな」
「だが私は貴族様ではない、あ、えぇと、ありません」
「次の王様でしょ、候補だけど」
「あ、あぁ、そうか、そうだな、です」
ヴァイルはマゴついている私を見ながら大袈裟に溜め息を吐いてみせた。まぁ、見てて気分の良い作法ではないから仕方ないが、彼もなかなか失礼だ。
「あのさぁ、レハトって俺を敬ってるの?」
「うやま……?」
「偉いって思ってる?」
「え、全然……って、あっ、いや、すまん、って、あ、ごめんなさ、あぁ、えーと、申し訳有りません?」
「だーかーらー!無理しなくていいんだってば!そういうのめんどくさいでしょ?」
よくご存じで。私がその通りだと頷けば「うん、素直で宜しい」と彼は言って悪戯好きの小さな子みたいに笑う。なんだか村の子と変わらないな。……それにしては別嬪過ぎるが。
「他の奴にはそういうのしなきゃいけないと思うけど、ずっとそういうの疲れるだろ?だからさ、せめて俺の前くらい普通にしとけ」
俺もそっちのが楽だから、と彼はぽんぽんと私の肩を叩く。
「わかった、じゃあそうする」
「よしよし」
「じゃ、ヴァイル――でいいんだよな?」
「いいよ、その調子」
「うん……。早速で悪いが、ヴァイル、君に頼みがある」
「へっ?なになに?どした?」
「あのな」

ここが何処か教えてくれ。











「迷子、まいごって」
閑散とした廊下。隣を歩くヴァイルは未だにくつくつと笑っている。
「うるさい、こんなごちゃごちゃした場所なんてなぁ!私の村には無かったんだ!君は生まれてからずっと此処にいるから分かってないだけだ!」
「でもさ、ふっ、レハト、俺と同い年でしょ?なのに、……ぷっ、良かったら手ぇ繋いだげようか?」
「こ、のっ!!」
出された手を思いきり叩いてやる。ばちんと良い音がしてヴァイルが悲鳴をあげた。「なに、レハトって怖いやつ?凶暴?犬?」なんて涙目で、でもまだ微妙に笑いなが言う。なんだこいつ、失礼にも程があるだろう。やっぱヴァイルは貴族じゃない、絶対そんなんじゃない。
「地図はないのか、地図!」
「えー、ある訳無いでしょ」
手のひらをヒラヒラ振りながら――たぶん痛いのだろう――彼は肩をすくめてみせる。
「そんなのあったら悪い奴らに利用されるに決まってるじゃん。機密事項だよ、分かる?」
理屈はわかる。だが、そんな事は今の私に関係有るか?いや、無い。
「地図よこせ」
「だから無いってば」
「なら君が作って私によこせ」
「やだよ、めんどくさい」
仁辺もなく彼は言う。君に優しさは無いのか、同情は無いのかと詰め寄れば、唇をとがらせて「だったら自分で作ればいいでしょ」私を押し返しながら言う。
「なら君も手伝え。私は此処を知らない。また迷うのも嫌だ」
「いーやーだー。俺だってね、暇じゃないんだから」
嘘吐け、よく君がウロウロしているのを見掛けるぞ。
「へぇ、忙しいっての?」
「そうそう、忙し……」
私の視線に気付いたヴァイルがぎくりと肩を竦める。「なに、なんなの、その目」見てるだけだとニヤついてやれば、ヴァイルは明らかに不機嫌そうな顔になった。言いたい事があるなら言えと、そんな空気を醸し出してくるから正直に言うと「見てたの」目を逸らされた。
「暇なら手伝え」
「やだ、遊ぶのに忙しいんだから」
「じゃ、私と遊べ」
「あんたと遊ぶって地図書く作業でしょ?それ以外なら大歓迎だけどね。ま、そーゆー事だからさ」
後の道は適当に探して聞けと口早に言ってヴァイルは走り出す。「は、逃げられると思うな」これでも村では一番の駿足だ。彼の逃げ足も確かに早い が余裕ぶっていたのが悪かった。――私には都合が良いことだが――瞬く間もなく私は彼に追い付き、彼の前に躍り出た。「ちょ、やっ、馬鹿!」ヴァイルは勢 いを殺せず、私にぶつかってくる。体格も同じくらいだし踏ん張るよりも力を流す方が楽だろう。彼の体を前から抱き締め進む力のままに――――あ、しまっ た、ここは石畳だ。村みたいに草じゃない。
刹那、ごつんと濁音がして背中に激痛。頭は辛うじて上げていたのがせめてもの救いか。いっそ気絶してしまった方が楽だったかもしれないなんて事を激痛の中で淡く考えてみたり、石畳ってのはやたら冷たいだとか、ヴァイルは軽いだとか、まとまりなく考えてみたり。
やがてヴァイルが恐々と私の上から降り、私も体を起こした。横目で彼を窺うと顔面蒼白。
「なんて顔してるんだ」
とん、と肩を押してやれば「大丈夫なの……?」覇気の無い声で問われる。「問題無い、痛くない」うそ、物凄く痛い。痩せ我慢で笑ってやるとヴァイルは途端に肌に色を取り戻し
「……馬鹿っ!なんであんな事したのさ!」
私を睨みつけた。はいはい、ごもっとも。
「逃げるから捕まえようと」
「もっとやり方があるだろ!なんでこんな手……!?下手したら大怪我じゃん!」
「君には大事無いようにしたつもりだけど」
「俺じゃなくてあんたの事!こんな事であんたがいなくなったら、俺、どうすればいい訳!?」
青ざめていた顔は今度は赤くなって、心なしか目が潤んできている。なんだよ、大袈裟だな、こいつ。
「いなくならないよ、私は」
こういう時は頭を撫でてやるに限るのだ。よしよしと頭を撫でてやると意外にも大人しく撫でさせた。
「私は何処にも行かない、平気だ」
私が言うとヴァイルは撫でていた私の手を掴み、じっと私の目を見つめ――やがて首を振った。
「どうした?」
「ん?こんな馬鹿な事をした奴の顔を拝んでやろーと思ってさ」
にんまりと笑う彼の目に涙はもうない。妙な雰囲気を感じて大丈夫かと問う――前に彼はさっさと立ち上がり「ほら、立て」私の手を引っ張った。
「地図、作るんでしょ?紙とペン貰いに行こ」
「……いいのか?」
「ここまでされて断る程、俺は嫌な奴じゃないよ。タナッセじゃあるまいし」
「タナッセ、って」
いけすかない青髪かと立ち上がりながら問うと肩を竦めて「ご名答」ウンザリとした顔で言う。
「何だかんだとうるさいんだよね。たぶんあんたは目を付けられてるから俺以上に色々言われると思うけど気にしなくていいから」
人の言葉を気にした事は今まで一度たりともないから問題無いと私が笑えば「あんたの場合はちょっとくらい気にした方がいいかも」呆れ顔で。
「ま、いいや。何か言われたら味方してあげるからね、安心してよ」
私の手を離すと「出番無さそうだけど」クスクスと笑う。そう願いたいものだ、どうせヴァイルが味方したって後から弄られるに決まってるんだから。
「さ、時間無いからさっさと行こうぜ。そこの角曲がったら図書室だから紙とペンくらいあるだろ」
彼はそう言って歩き出し、私もそれを追いかけた。

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