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ちらしの裏側に書くようなどうでもいい事を書き綴る場所。 そして同意者を得たい、そんな人。
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一緒にいて楽しいよ
一緒に遊べて嬉しいよ
ずっとずっとそれが続いてく約束
沈む太陽の下で手を握って神に誓いを



嫌いにならないでね
好きでいてね
馬鹿みたいにあんたを愛しちゃった俺を置いてかないでね

変わらない
変われない
変わりたくない俺を変えたんだから
ちゃんと責任取ってよね



「雨のあと」3
ヴァイル×レハト
 空はぼんやりとだけ明るい。雨は上がったものの雨雲が通りすぎきってはいないからだ。太陽は灰色の雲の裏側で、その存在を静かに主張するだけ。
「そんなの見てて楽しい?」
 俺が問えば、目の前――手が届く距離――に、ぺたりと座り空を眺めているレハトは振り向かずに答える。
「うん、雲の間から光の柱が出てて綺麗だ」
「……そう」
 レハトの方が綺麗だと言いそうになって首を振る。ちがうちがう、そういうキャラじゃないって。
 ――レハトが綺麗だと思うのは本当だけど。豪奢に着飾った姿も最近では様になってるけど、元々の素材が良かったのもあると思う。最初の頃こそ、みすぼらしい村の子って感じはあったけど、垢を洗い落とし、髪を切り揃え、しっかりと食べさせるだけで貴族に引けを取らないだけの姿を手に入れた。……惚れた弱味の贔屓目はあるだろうけど、貴族連中もレハトに色目を使ってきているし俺の審美眼はあながち間違ってはいないはずだ。っていうか俺のレハトに変な目使うな。
「なぁ、レーハートー。それ飽きないー?」
「あぁ、飽きないよ」
 やはり振り向かずにレハトは言って、頷く。その動作でレハトの濡れた髪からぽたりと桶に滴が落ちた。波紋がこちらまで押し寄せてくる様子をぼんやり眺めながら「なんでこうなったんだろ」一糸まとわぬレハトを前に、同じく何も着てない俺は聞こえないように呟いた。
 まず何が悪いかっていえば俺が「一緒に着替えればいい」って言ったのが一番悪いんだ。自分達の姿をよく分かっていなかった。いや、分かってたけど、それでこれからどうなるかというのを考える余裕がなかったんだよね。
 近頃はレハトと居るだけで、もう頭の中がごちゃごちゃでフワフワで、何か考えようとするとレハトの事ばっかり出てきて、本当にどうしようもない。俺がこんななのに、あんな事をしてきたレハトは余裕綽々でからかってくるし。あ、でも余裕ぶってただけで顔真っ赤にして恥ずかしがってたな。あんな怯えちゃって可愛い……――って、あぁそうじゃなくて。
 つまり、だ。
 泥を流さなきゃいけない事を忘れていた、と。
 普通の汚れなら布で拭き取ればいいけど、泥は髪の間にも入り込んでいたし、時間が経ってたから固まってきてた。だから布で拭き取るだけじゃ役不足。そして用意されたのは露台に置かれた湯のたっぷり入った桶、というわけ。
 本当なら一人ずつ入れられる筈だったんだけど、それをレハトは「待つのも待たれるのも嫌だ。面倒だから一緒でいい」と言い出した。もちろん俺を含めた全員がその意見を却下。侍従達も俺とレハトの関係に気付いてはいるだろうけど、そういう……、肌を見せ合うようなのはさすがに許される事ではない。結婚してないし、……まだ。
 部屋にいる全員を敵に回してはレハトもさすがにたじろいでみせた。「え、と」考えるようにレハトは少し俯いて黙り、すわ何を言われるかと身構えた後に放たれた一言が
「どうしても駄目?」
 やたらと甘い声だったというか、何故か目がうるんでいたとか、吐息混じりだったというか。
 ――あんなの反則だと思う。
 俺がそれで良いと言えば止められるような奴はいないし、そもそも止めるべき筈の侍従群もレハトの色気に食われて頭がおかしくなっていたように見える。
 で、二人で砂を洗い落とし、「少し浸かっていたい」とレハトが言い、桶に新しい湯を張ったところで我に返った。
「なにやってんだ」
 侍従達は妙な気遣いで近くにいなくて、露台には俺とレハトの二人だけ。俺は溜め息を吐き、膝を抱えて目の前にいるレハトを見ると「あれ?」レハトの背に傷が見えた。「……あぁ、そうか」これを見たのは二回目だっけ。
 陽に晒される事のない背中は、全体的に少し陽に焼けたレハトには不釣り合いなくらい白い。その白い肌をした背には褐色に変色したまま戻らない傷跡がある。腕の付け根より少し内側――アネキウスの翼が生えている辺り――に二ヶ所。まるで翼をもがれたように見えるソレは彼が物心付く前に付けられたものらしい。瀕死の重症に陥ったものの後遺症もなく、ただ事件の痕跡がレハトの小さな背に残った。
 誰が何の為に傷つけた――というよりレハトを殺そうとした――かはわからないが、おそらくは印のせいだろう。
「もったいないよな」
 俺は呟く。レハトが顔だけこちらを向けて視線で問うてくる。
「綺麗な背中なのにさ、外に出せないよね」
「あぁ、傷のこと」
「そう、それ」
 頷くと、レハトはつまらなさそうに「出さないからいいよ、別に」言いながら腰を浮かし、俺の隣に座り直した。
「ふーん、そういう服は嫌いなの?最近はそういうの流行りらしいけど」
 なんでも背中の大きく開いたドレスを着て、髪を持ち上げウナジを見せるのが艶っぽくてよいのだとか。ハッキリ言って全然良さが分からないんだけど、レハトが着ればたぶん良さがわかるんだろう。
 レハトは「あー」と暫らく視線を宙に巡らせた後「嫌いではないよ」と、ひとつ頷いた。
「体のラインが出て綺麗だし、デザインの幅が増えたみたいで良いとは思うよ。でも私は流行なんか気にしないぞ、自分が良いと思ったものを着るだけだから。……それとも君はそういうのが好みなのか?」
「んー?俺はレハトが似合うならなんでもいいよ」
「適当だなぁ。じゃあ、私に似合うと思う?」
「思うよ、でも」
 俺は手を伸ばしてレハトの背、傷に指を這わす。ぴくりとレハトが体を震わせたけど、ちっとも嫌がらずに、けど少し不思議そうに俺を見ている。「面白いのか、それ」レハトが首をかしげる。
「誰も知らないよね、これの事」
「ローニカ達は見たよ」
「侍従だよね、それ。他は?」
「母さんくらい。他はいない」
「じゃあ、これから見ていいのは俺だけね」
「は、なんだそれ」
「レハトの秘密を独り占めしたいから」
「……もしかして独占欲強い?」
「強い強い」
「そう、か。うん、大変だな」
 あ、目ぇ逸らされた。でも仕方無いじゃん、レハトが俺のそういうとこ引き出したんだから。「なぁ、ヴァイル」「ん?」レハトが今度はまじまじと俺の顔を見つめ「まさか私を閉じ込めたりしないだろうな」……って、レハト、俺を何だと思ってんの。
「ま、とにかく秘密。誰にも見せないでよ」
 言えば、レハトは嘆息混じりで「わかった」答える。
「で、君の秘密は私にくれるのか?」
「俺の?別にないけど」
「不平等だな、なにか寄越せ」
「なにかって、うわっ!ちょ、レハト、何引っ付いてきて!だ、だめ、駄目だって、服着てないし、こ、こういう、あの……!」
「あ、変なこと考えるなよ。ちょっと身体検査をだな」
「ひゃあ!!」
 前に回り込んだレハトは勢い付けて抱きついてきた。ぺたりと胸を合わせ、レハトは肩辺りに顎をのせ「ん?なんかない?」するすると背中を撫でて、ああっ、くすぐったい!!「綺麗なもんだな、じゃあ、前」ぱっと体を放し、レハトの何処かわくわくとした顔が見えて
「股開け」
 ………………………。
「…………レハト?」
「胸とか腹はテエロが見てるからな、駄目だ。だから股開け。そういうとこに黒子の一個ぐらいあるだろ」
「なななななない!ないないないない!!」
「じゃあ確認する」
「やだ!!」
 なに、その手の動き!なんかウネウネしてるよ!なんなのそれ!!
「何照れてんだ」
 本当に分からないといったふうにレハトは首をかしげる。
「おかしいよね!!おかしいでしょ!!普通人に見せる場所じゃないよね!?いくらレハトだってこれは無理!!」
「んっ」
 はた、とレハトの動きが止まる。そして「く」俯いて、かすかに震えて……え、なにこれ。
「あの」
「駄目ならいい」
 顔をあげたレハトは緩く閉じられた目を潤ませ、少しかすれた声でそんな事を言う。
「……あ、う」
「すまん」
 す、と頭の熱が冷めるのを感じた。逆に胸の辺りがぼんやりと熱くなって、きりきり痛み出す。
「そんな顔、ずるいよ」
 レハトは自分がどうやれば他人を引き込めるか分かってるんだろうな。俺がレハトの事大好きで言う事なんでも聞いちゃう事も。ああもう、わかったよ、レハトの全部が俺ので、俺の全部はレハトのだもんな。でもさ……――
「そういう顔は俺以外の前でするの無しな」
「……なんのこと?」
 潤んだ目をこするレハトの手を掴む。きょとんとしたレハトが「なんだ」眉尻を下げ、困り顔で微笑む。
「誰かがレハトの為にする事も俺がやる、誰かがレハトの為になにかをあげるなら、俺がもっと凄いのをレハトにあげる、俺が全部あげる」
 だから
「そういう顔は俺だけに見せればいいから」
 レハトの目尻残る涙を指でこすってやると、レハトは目をぱちぱちと瞬かせ
「んふぁ」
「へっ?」
 大きく口を開けた。え、なにこれ、どういうこと?
「ふぁ、……あ、すまん」
「え、なに、あくび?」
「あぁ、ずっと噛み殺してたんだが」
 目の前ですまんな、と笑うレハトの目にはうっすら涙、あくびの余韻で声に吐息が混じり、まるで甘く囁くようで。
「………………」
「あ、もしかして泣いてると思ったのか?ははっ、それはない。股間が見たいからって泣くか、馬鹿」
 けたけたと笑うレハトが、尤もな事を言う。確かにそうだけど!そうだけどさ!!レハトにあんな顔されたら頭おかしくなるって!!
「まぁ、私が泣くのは君の前だけだから安心しておけ」
 なんて気休めにもならない事を言って、レハトはすたすたと部屋の中に入っていく。侍従の何人かが何処からか現れてレハトを拭き始めるのを目の端で見ながら俺は肩を落とした。
「どんまいですよ、ヴァイル様!」
 空気読めない侍従達が横合いから話しかけてきてウザかった。
 おまえ見てたの?なんで見てたの?楽しかっただろ、俺の道化っぷり。
「次、頑張りましょう」
 ニヤニヤするな、このデバガメ共め!!


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