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ちらしの裏側に書くようなどうでもいい事を書き綴る場所。 そして同意者を得たい、そんな人。
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誰にもあげないからね

俺の可愛い人だよ

俺だけの可愛い人なんだから



泣いちゃうくらいの大笑いとか

恥ずかしくて困った顔だとか

跳び跳ねるくらい嬉しそうにしてるのだとか

苦しくて俺に頼っちゃうとか



たまにはそんなの見たいなぁ



ワガママって?

そう、じゃあワガママで結構!





「雨の次」 2

ヴァイル×レハト




 あちらが何と思っていようと、助けられたのは事実だから私からも感謝を述べる。テエロは再び同じ言葉を返す。実に事務的で冷ややかに滑り落ちる言葉。
「じゃ、俺達出掛けるから」
「いえ、それはなりません」
「は、なんで?もうレハトも元気で俺も……げっ」
 テエロが半歩引くと、後ろにいた人間が足早に私達に寄ってくる。それは今にも泣き出しそうな、ヴァイル付きの侍従達。まぁ、うん、そうなるよな。体も服も泥だらけだし、医務室に主人が世話になってるとなったら来るよな。
「誰が呼んだの?」
 イライラした声音で部屋に視線をぐるり。何人か怯えた様子で物影に隠れる医務官がいたが、彼らは責められるべきではないだろう。ここで黙っていることの方が職務怠慢で叱られるべきだ。
「さぁ部屋へ戻りましょう。汚れをすっかり落としてしまいましょう」
 おどおどと侍従達がヴァイルを取り囲む。「平気だから」と突っぱねるものの、その顔には諦めが浮かぶ。
「さぁ参りましょう」
 人が引き、扉への道がざっと作られる。おぉ、これは格好良い!すごいな、これが王様候補の力!そこに痺れる!あこが――
「レハトは?」
「んぁ?私?私が何だ?」
「レハトは放っておいていいの?レハトのとこの侍従は?」
「探してはいるのですが、レハト様の侍従方はお二人しかいらっしゃらないので」
 未だに見つからない、と締めて医務官の男は人の間に引っ込む。
 ローニカは朝から城下へ買い出しに出ていったし、サニャは、あー……また変な子に捕まって尋問されてるんじゃないかなぁ。私の話なんか聞き出したところで何の面白味もないだろうに。
「じゃあレハトも一緒でいいじゃん。な、レハト!」
「ん?あぁ、そうだな?」
「よし!じゃあ行こ行こ」
「ん?んん?」
 一緒って何だろうかと考えている間にヴァイルは私の手を取って、人の道を歩いていく。慌てた様子で後ろから侍従達が着いてきた。侍従達は口々に「どういう事ですか」と尋ねているので、それに乗じて私も尋ねてみる。
 私を引っ張りながら廊下へ出たヴァイルは「着替えるのとか俺のとこでやるって事」と振り向き答える。
「ふぅん?」
「一緒の方がすぐに遊びに行けるし、レハトもその方がいいだろ?」
「理にはかなっているな、たぶん」
 色々と問題はありそうだが、ヴァイルがいいならそれでいいけれど。ちらりと後ろの侍従達を見やれば案の定あんぐりと口を開いていたり、額を押さえて呆れ果てていたり、青い顔をしていたり。
「じゃ、そういう事で俺達は先に行ってるから頼んだ!」
 引っ張られて、私達は廊下を走る。後ろで走るなと注意が飛んできているが、まぁ、ヴァイルが聞くはずもないし、私も止める気はない。ばたばたと真っ直ぐ走り続けて、角を曲がったところでヴァイルがいきなり止まった。
「うわ!なん、ひゃ、わっ」
 同じように止まろうとしたが、体は前につんのめる。「おっと」それを支えたのはヴァイルで、私は彼の胸に抱え込まれるようにして事なきを得た。
「急に止まるなよ」
 文句を言いながら体勢を直せば、彼は笑いながら「ごめんな」言って、再び歩き出す。
「一緒にいられる時間なのに走るだけは勿体無いだろ」
「いつでも遊びに行けるじゃないか」
「まぁねー。でもあと2月もしたら自由に動けなくなる」
 王様って忙しいんだよと伸びをしながらヴァイルは言う。
「あぁ、リリアノ様を見ていたら分かるよ。いつ休んでいらっしゃるか不安になるくらいにご多忙でいらっしゃるな。だが私は君との約束を果たすつもりだよ。君さえ望んでくれるなら私は君と婚い」
「レハトっ」
「ん、んんんっ?」
 突如駆け寄ってきたヴァイルが私の口を手で押さえる。すわ何事かと周囲に目を配らせるも廊下は静かなものである。もう一度左右に視線を振って何もないのを確認したところで、口を押さえる本人を見据える。
「あ、の、レハト、えっと」
 顔を赤くして、彼は首を振る。
「そーゆーの、もうちょい待って。いや、駄目とか嫌とか早いとかじゃないんだ。ただケジメというか、えっと……」
 手を離した彼は俯き「あのね」私の手をきゅっと掴む。そして視線だけを私に向けると至極小さな声で
「こういうのくらい俺にやらせて?」
「キタコレ……ッ!!」
「え、なに?」
「いや、なんでもないよ」
 いかんな、つい興奮してしまった。
 緩く握られていた手を握り直し、私は「じゃあ待ってる」ヴァイルに微笑みを向ける。彼は真っ赤な顔のままコクコクと何度も頷いた。
「えっと、格好良く出来ないかもしれないけど、いい?」
「いいよ、君からの言葉なら私は全部嬉しいから」
「言ってて恥ずかしくない?」
「全然恥ずかしくない。事実を述べているに過ぎないのに何を恥じるんだ」
「……」
「君は恥じる私を見たいのか?やらしいな」
「ち、違っ……わなくない、かも」
「わお、レハトちゃん、ドン退きだ」
「だ、だって……」
「なんだよ」
 再び下げられた視線。その視線は上げられることなく、ヴァイルはぽつりと小さな掠れた声で
「俺、レハトの色んな顔見たいから」
「キタコレ!!」
「だから何なのそれ」
「発作だ、気にするな」
 レハトは時々変だとヴァイルは苦笑する。失礼な、私はいつでも常識人だというのに。
「歩きながら話そっか」
「ん、わかった」
 あまり廊下で話し込むのも良くないだろう。ちらほらと人の姿も見えてきたし、私とヴァイルが懇意――というか熱愛――である事の噂が立つのは宜しくない。私としては一向に構わない類いの噂だが、寵愛者としての立場からすれば害な噂だろう。どうにかなるにしても未だ秘されるべき話だ。…………リリアノ様はご存知みたいで、ヴァイルを突っついて遊んでいるようだが。
「それにしても酷い有り様だな、泥々じゃないか」
「レハトもおんなじだよ」
「私は二回目だからな、堂に入っているだろうが」
「うわ、嫌な自慢」
 前回は一人で水溜まりに突っ込んだ。何て事はない、ただ転けたのである。そんな情けない事をしたとバレるのが嫌で湖で洗おうとした所でローニカに回収され、風呂行きだ。頭にも砂利が忍び込んでいた為、湯を張った桶に座らされ、ひたすら頭から湯を掛けられた苦い思い出。今回はヴァイルがいるし辛いだけじゃないはずだ、たぶん。
「目、もう痛くないの?」
 歩きながら、ひょこりと顔を覗き込むヴァイル。「痛くないよ」 と首を振れば「本当に?無理してない?」「本当に。無理してない。」不安げに顔を歪めるものだから、その頭をわしわしと撫でてやる。
「君は心配性だな」
「心配するよ、特にレハトの事だからすぐ無理しそう」
「しない、君の前だけでは」
「そ、そう?ならいいや」
 あ、照れた。
「えっと、レハト」
 なんだと返して、何となしに繋いだ手をゆらゆら揺らしてみる。もう来年には成人だというのに子供染みた所作だなんて思うが、私達にはこれで丁度良い。すぐに大人になんかならなくていいさ、私達は私達の早さで一緒に成長すれば、それでいい。
「俺も」
「うん、なんだ」

「レハトが好きだよ」

「…………」
「…………」
「ぶふぅっ!!」
「うっわ!きったな!!」
 って、なんだなんだなんだよ!
「いきなりなんだ!!な、なんの脈絡も無いだろ!!」
「え?で、でも」
 もじもじしながら彼が言うには私が医務室に担ぎ込まれた時に(私のからかいで)好きだと言われたから、返さなきゃと思ったらしい。律儀だ!妙な所だけ律儀だ、この寵愛者!!
「だからって、別に、その、同じ事言ってほしいから言ったんじゃないよ」
「うん、俺が言いたかっただけ」
 へらへらと彼は事も無げに笑う。君の恥ずかしがるポイントが私には分からないぞ、寵愛者一号。。
 私が呆れて肩をすくめると
「あれ、レハト?顔赤いよね?」
 足を止めたヴァイルがにんまりと笑って、私の手を引いた。
「えっ、なっ、赤くない!」
 空いている手で頬に触れれば、いつもより暖かい。そう感じた瞬間にはヴァイルによって、その手がひっぺがされた。両手を動かないように力を込められ、ヴァイルは顔を間近にくすりと笑う。その笑顔は実にどす黒い。獲物を狙う猫のように目を三日月型に細め、なんていうか、常々思っていたが彼は加虐趣味があるんじゃないのか。
「やっぱり赤いよね。もしかして照れてる?」
「っ、見るな!手ぇ放せ!!」
「レハト、可愛いなー」
「かっ」
 今何て言った?
「可愛い!?事もあろうに、このレハトに可愛いって!?ち、違うだろ、私は可愛いとか、そんな、違っ……!!」
「可愛いよ」
 ヴァイルは変わらず笑顔で、それで囁くようにそんな事を言う。
「う、えぅ、止めろよぉ、調子狂うだろー……」
 両手を掴まれ、向き合う状態になって、何処にも逃げ道はない。にんまりと笑うヴァイルは私から目を逸らそうとしてくれないし、手を離してもくれない。見るなと言ってもいやだとぴしゃりと懇願をはね除ける。
「へ、変態」
「そうだよ。さっきレハトも言ってただろ、やらしいって」
「根に持つなよ」
「持ってないよ?」
 持ってる、これ絶対引き摺ってる。
「とにかく放せ。部屋に行かなきゃ駄目だろ」
 掴まれた手を振りほどこうと手をバタバタと揺する。だが、向こうは全く放す気がないらしい。
「遅れてもいいじゃん」
 力ずくでもいいんだが、どうにも体の芯に力が入らないというか……。よもや私には被虐趣味があるのではないだろうか。くそ、やめてくれ、悪い冗談だ。
「待たせるのは悪い事だ」
「俺は気にしない」
「私は気にする」
「もっとレハトが見たいんだ」
「いつも見てるだろ」
「顔真っ赤にして、なんで?なんで顔赤いの?」
「うっさい」
「好き」
「ぐ」
「言うのはいいのに、言われるのは恥ずかしいんだ?」
 タチの悪い酔っ払いか、こいつは。あんな二文字如きに動揺する私も私だ。しっかりしろ。
「いいから行くぞ」
 掴まれたずるずると後ろ歩きで進むと、さすがの彼も
「れーはっ、とっ!」
「ひゃ!!」
 全然動く気はないらしく、手を放したと思ったら今度は抱きついてきた。片手で私の背を抑え、片手で頭をわしわしと撫でる。
「誰かに見られたらヤバイんじゃなかったのか」
「ん、もういいや。隠すのやめた。レハト好き」
「そっ、す、……その言葉はもっと大切にだな」
「俺をからかう為に好きって言ったのは何処の誰なの?」
 なんだよ、分かってたのか。くそ、こいつ最初からどうなるか分かっててやってたんだな。性格わっる!超わっる!
「レハトレハトレハト」
 ヴァイルの息が耳朶にかかって妙にどきどきする私もだいぶイカれてるな。変態じゃないか、これじゃ。だが
「遊びはおしまいだよ」
 膝を折り、拘束を抜ける。きょとんとして隙だらけのヴァイルの背後に踏み込み、振り向きざまにカカトで彼の膝裏を弱く叩く。ヴァイルがニャアと妙な声をあげて、かくんと膝が曲がて体勢を崩すのを横目で見ながら、私は
「よっ」
 すかさず浮わついた足取りの彼の肩を掴んで後ろへ引く。すると重心が無理矢理後ろに動き完全に動きに制御が利かなくなる。っていうか、きゃあって!可愛いなおい!
 まあいいや。で、ここで屈んで片腕を彼の膝裏へ、片方の腕は平行にして……
「さぁ参りましょう、私の可愛い人」
 私の腕の中にすっぽりと抱え込まれた私の対は、口をぱくぱく開くものの声は出てこない。一瞬逃げようとしたのか周囲に視線を走らせたものの、観念したらしく大きな溜め息をひとつ。ヴァイルの両腕が私の首に回り、ぎゅっと抱き締められる。
「……レハトの馬鹿」
 耳元で彼は拗ねた声で言った。
 馬鹿で結構。私達にはまだこういうのは早いんだよ。



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ただの変態。そして厨二病患者。更に重箱の隅を突つき隊。
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