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ちらしの裏側に書くようなどうでもいい事を書き綴る場所。 そして同意者を得たい、そんな人。
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出来る事がある
出来ない事がある

出来ても出来ない事も
出来ないから出来る事も


本当にしたい事ってのはどうしてこうも難しいんだろうね
本当嫌になって悲しくなって
お願い教えてよ、どうしたらいい?



私は君のために何が出来るんだろう?


「誰でも出来る事」 その3
レハト×サニャ。
サニャ愛情ED後、ヴァイル親友状態。



 王はサニャを見ている。サニャは王を見ている。王は眉間に皺を寄せ眉尻を下げ、悲しみを瞳に映していた。サニャは王の言葉の真意を掴めず視線を泳がせていた。双方は黙りこむ。空気は硬くなり、時間は歩みを遅くする。喉元に詰まった違和感。部屋に居座る異物感。体に染みるような圧迫。部屋の隅の暗闇に吸い込まれてしまうような感覚。

「あの、私は……」

それに耐えられず沈黙を破ったのはサニャ。
そして

「ははっ!」

はじかれたようヴァイルは「今のなし!」笑い声をあげる。
少しも感情の入っていない笑みだとサニャは分かった。だからといって何かが出来るのでもない。ただ、その温もりの無い笑い声は痛々しくて、悲しくて、自分の中にある痛みなんてものが笑えるほどに小さなものだと思えた。するすると毒気が抜けていく、強張っていた体の力が抜けていく。

「まぁ、なんていうか、俺にも出来ない事はあるよ。でも周りがやれって言うから仕方なくやってる。上手く出来てるとは思わないけど、それが俺の役目なんだから仕方ないよね。俺だってさ、もっと、……したい事も、したくない事も。欲しい物もあるんだよ」

目を逸らし、ヴァイルは笑う。
サニャの目の前にいるのは寵愛者。天才。出来ぬ事などないと思っていた王。だが、大きいと思っていた彼は、今は何故か子供のように小さくて弱々しく見えるのだ、威勢を張っているだけの小さな子供に。無理矢理矢面に立たされ偉大で強い王を演じているだけで、その実はそんな者ではないのではないか。
彼は、きっと強がりなだけで、サニャと同じ。弱くて、怖がりの。そう、ただの人間だ。

「正直に言えば、やりたくない。逃げたい。でも、それが俺の役目」

それでも彼は立って前を向いている。それが役目と。逃げる事叶わぬならばと期待を背負い、後ろを歩む人々の為に吹き荒ぶ風に痛め付けられながら先を行く。その痛みはきっとサニャの比ではなくて。

「アンタにも役目はあるよな。それを全うするも、逃げるもアンタが決める事だ。でもレハトの隣に居るならやってみる気はない?無理強いはしない、けど……」

 歯切れ悪くヴァイルは言う。サニャは

「やれますでしょうか」

脚の上に置いた手を握りしめながら小さく言う。

彼を前にしては、自分の悩みなど小さく見えた。もちろん、それをする事に恐怖があるし、出来ないかもしれないという不安も強い。やりたくないと思う。逃げ出したいと願う。しかし、彼がやってきた事を、レハトがやってきた事をサニャは知っているから自分にだって出来るかもしれないと、ぼんやりと思うのだ。
出来ぬをやってのけたレハトを見ているサニャだからこそ。

「出来るよ、出来るまで助けてあげる。だから」

空気が緩む。
サニャはレハトの親友へ視線を向け

「はい」

しっかりと頷く。ヴァイルは不思議そうに瞬きを繰り返し首をかしげていたが「そっか!」ぱっと笑みを咲かせた。

「よーし、よーし!あいつの親友である俺が後ろ楯になってやるから好きにやってみなよ。何かあったら止めてやる!」

王に逆らう奴なんていないぞ、とヴァイルカッカッは笑い、机に置かれていた酒をカップに注ぐ。サニャはぼんやりとそれを見つめ「どうして」ぽつりと呟く。

「……私を憎く思っていらっしゃるのではないのですか」

王の新緑の瞳をしっかと見つめた。敵意を剥き出し、それから不安を映した目は今は穏やかな色を乗せ細められている。

「出来る事と出来ない事、ね」

彼は笑う。

「親友としてレハトの為に出来る事をした、それだけ。俺が出来ない事をアンタにして貰う為に出来る事をした。まぁ、つまりワザとアンタがキレるように焚き付けたんだよね。おとなしいと思ってたから無理かなと思ったら、上手い具合にいった」

「あ……、そ、なんですか……」

つまり、サニャはまんまとヴァイルの策に掛かった訳だ。呆けるるサニャに「俺の演技凄かっただろ」ヴァイルはニヤニヤ笑う。

「ま、そんな訳で俺の親友のために邁進したまえ、文官長の麗しの君。この俺とアンタ、親友と妻として別の場所からの共闘な。ほら、共闘を祝して」

差し出されたのは酒が注がれた白磁の杯。「って、あぁ、駄目なんだっけ」サニャが受け取ろうと手を伸ばしたところで、ヴァイルは手を引く。大丈夫だと言うと彼は「忘れてない?」自らの腹をぽんぽんと叩いた。

「いるよね、そこ」
「あっ!」
「おめでと。レハト喜「サぁああああニャぁあああああああああ!!」

カップを割らんばかりの大音声がヴァイルの言葉を遮った。見なくても分かる。件の文官長で、ヴァイルの親友で、そしてサニャの夫だ。

「ただいま、たっだいまぁ!いーいこにしてましたか、我が妻よ!!」

ばたばたと音を立てながらレハトが部屋へ飛び込んできた。両手には大量の酒瓶。けらけらと先刻と変わらず楽しげに笑いながら二人に近付き、持っていた瓶を乱暴に机に下ろす。

「ローニカにさぁ、呑みすぎですって言って止められたからさぁ、私ね、実力行使してきたぞっ!ふはっ、ローニカってば吃驚するぐらい早くて強くてレハトちゃんは本気になっちゃったよ!!だから、ふははっ、こいつは勝利の美酒って奴だよなー!」

戦利品の酒を手近の大きめのカップに注ぎ、一気に飲み干す。けふ、と一息ついたレハトが「あっれー?」異変に気付く。

「ヴァイルもサニャも機嫌良いなー?何かあったのか?」

まじまじと二人を見つめレハトは首をかしげる。

「まぁね、ちょっと面白おかしく話してたんだよ」

レハトが開けた酒を自分のカップに注ぎながらヴァイルは楽しげに言う。

「ふん?そーお?よくわからんが、めでたいなー」
「そう、めでたいよ。……なぁ?」
「へっ?あ、え、はい……?」

含みを持たせたヴァイルの言葉に急に話を振られたサニャは訳も解らず頷く。「あれ?レハトには秘密?」「え、……?」目を丸くしてレハトとヴァイルを交互に見やり、ヴァイルが腹を撫でているのに気付く。「うぁ」その意図を掴めた途端、サニャは顔を熟れた李のように赤くさせ、体を強張らせた。ヴァイルはその様子に満足そうに笑んで小さく頷く。

「ちょォっと待てっ!二人で目で合図とか、とかとかっ!私は仲間外れとかっ!浮気とかっ、そんなの駄目なんだからなっ!」

二人の目配せに勘違いを起こしたレハトが体を半ばテーブルに乗せるようにして二人の間に割り込む。そしてヴァイルとサニャを幾度か交互に見て「ヴァイル!」標的を親友へと決定した――のだが「レハト」サニャが今まさに見当違いの罵声を浴びせようとする夫の手に触れた。

「……あ?サニャ?」
「耳貸して」
「ん、ん?うん?」

レハトはそれでも二人の間からは抜けたくないらしく、ごそごそと机の上を這ってサニャに近付く。サニャは苦笑して体を屈めるとレハトの耳に「私ね」静かにソレを告げた。刹那「っうおぇあ!!」がばりとレハトが起き上がる。口を開き、閉め、わなわなと震え、視線を泳がせる。やがてサニャに視線を定めると唇だけで言葉を伝える。サニャが微かに頷くのを見たレハトはみるみる内に破顔し「愛してるよ!」勢いをつけてサニャを抱き締めた。苦しいとサニャが笑えばレハトは同じように勢いよく体を離す。レハトは何かを言おうと口を開いたものの言葉が出てこないらしく、再び口の開閉を繰り返し、サニャもサニャで何を言おうか迷っている。言いたい事は決まっているのに言葉が決まらない。ただ二人の間にある空気が暖かなもので、それがくすぐったくて夫婦は同時に笑いだした。

「おめでとう、お二人さん」

手を打ち鳴らす音へ二人同時に向けば、そこには少し呆れた顔の国王が杯を傾けながら座している。

「続きは帰ってからにしてよ。目の前で男女の睦事を見る趣味無いし」

酒に口を含みながら、追い払う仕草。レハトとサニャは目を合わせ赤面する。

「べ、べつに続きとかないよ。変な勘繰りはやめろ」
「そうです!サニャ達は、その、あの、えっと……」
「はいはい、好きにしていいから。とりあえず今日はお開きなー。さすがの王様でも夫婦のお祝いにはちょっかい出さないから」

出てけとばかりに部屋のドアに視線を向けて「ん?」ソレと目が合った。

「…………」
「…………」

ぴたりと動きを止めたヴァイル。二人がその視線の先に目を向ければ

「うぇ、ひぐっ」

涙をばたばたと落とす男が一人。服装からして文官だろう。がたがたと遠目から見ても解るほどに震え、その顔は泣いているせいか真っ赤だ。

「サニャさまぁああ……」
「あ」

恨みがこもった視線を受けたサニャは部屋を訪れた本来の意味をそこで思い出す。と同時に

「カロマ?どうした?何かあったのか?」

未だ酔った頭のレハトがその男に近付き笑いかけた。カロマと呼ばれた男は涙を拭きもせずに「こっ、今年度予算を計算した、か、紙を兎鹿に食べられましたぁあ……!!」情けなく上ずる声で言いレハトの袖の端を握る。瞬間、レハトの笑顔が凍り、しかし、すぐに「わかったわかった」カロマの髪をぐしゃぐしゃにして頭を撫でてやる。

「レハトしゃまぁ……!!」

もはや言葉として認識出来ない程に涙で濁った声で、おそらく感謝の言葉を告げるカロマ。あうあうと息も絶え絶えにレハトの体に抱きつき、今度は謝罪。くすくすとレハトは「大丈夫だ」と笑う。

「私がいれば十人分だろ?なら、もう一人いれば二十人。そうすれば、あんなのすぐ終わる」
「も、もうひひょり?」
「おぉ、ここには奇遇なことに私と同じくらい優秀な男がいるんだ」
「レハト、まさか俺の事言ってるんじゃないだろうなー」

サニャの前席で王が呆れ顔で言えば、振り向いたレハトはとびきりの笑顔で。

「やぁ、そこにいるのは私のライバルで親友のヴァイルくんじゃないか」
「わぁ、凄い棒読み」
「君の親友のレハトが困っているよ。さぁ、ヴァイル君はどうする?」
「レハト、この国の王様の事忘れてない?」
「ふ、ん?」

レハトは真顔に戻ると、目を細めてヴァイルを見つめる。そして「今は」二人きりでいる時にサニャに向けるような至極優しい笑みを浮かべ

「今くらいはそんなの要らない、私の親友ってだけであればいいさ」
「……」
「約束しただろ。どっちが王様になっても、ずっと親友だって」
「……わ、わかった、やる、やります、やればいいんでしょ!」

時と場合さえ違えば胸をうつ言葉。だが今の状況では、またヴァイルがレハトへの好意を持っている状況では、ただヴァイルを動かす餌でしかないのだ。
レハトがその辺りを分かってやっているか怪しいものの、鈍感な彼であるからおそらくはヴァイルの想いなど知らず、ただ応援を頼みたいだけなのだろうが。
王が助っ人に出るという異例中の異例に泡を吹くカロマの頭をぐしゃぐしゃに撫でるレハトをじっと見て、サニャは首をかしげる。――少しだけ、ほんの少しだけレハトが浮かべている笑みに違和感を感じた。その違和感はほんの小さなもので、すぐに気のせいと思ったけれど。

「さて、と」

ふいにレハトが振り向く。サニャと目が合って、その目が笑みで弧を描く。

「じゃあ私達はもう一働きしてくるから、サニャは戻っておいてくれるかな」

帰ったらお祝いするからごめんな、と片目を閉じ手を合わせて謝るレハト。サニャは少し考えて

「わっ、私も手伝いたいです!」

なにかを始めるにしても、今は少しでも彼の為になる事をしたかった。何が出来て何が出来ないか、今は何にでも試して、出来るならば少しでも彼の為になる事を増やしたい。「だ、駄目かな?」問えばレハトは渋い顔で「体によくないよ」そう返す。
しかし

「いいじゃん、やらせてやれば。兎鹿の手でも使いたいくらいなんでしょ?」

ヴァイルが助け船送る。「この人が行かないなら俺も行かないから」と鼻で笑うと、レハトはなんで君がと訝しげにヴァイルを見つめ、だがそれもすぐに止め

「わかった、二人とも来てくれるかい?」

そっと笑う。サニャとヴァイルが頷き、レハトのすぐ近くに立っていたカロマはとうとう目を回して床へと落ちた。




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